幸せのつかみ方

告白

勤務時間が終わった。
更衣室で着替えを済ませた私は、樹さんのいる経営管理課に行く為にエレベーターに乗った。

7階を押そうとして手を止め、屋上のボタンを押した。
事務方の勤務時間が終わってすぐだと管理課にまだ他の人がいるに違いない。
もう少し屋上で時間をつぶしながら、気持ちを落ち着かせてから行こう。

エレベーターを降り、自動販売機で冷たいお茶を買った。

夏の屋上は夕方になっても暑かった。
木陰に入ってペットボトルのキャップを開ける・・・。
「固・・・」
木陰の端にあるベンチにまで行き、鞄を置く。
「んっ」
と力を入れてキャップを開ける。
水滴で滑って開かない。

そういえば、樹さんにペットボトルのキャップを開けてもらったなと思い出し、フッと笑みがこぼれる。

ペットボトルについた水滴を拭うためにハンカチを出そうと鞄に手をやると、
「貸してごらん」
と、ペットボトルを取られた。

「え?」
と顔を上げると、そこには樹さんがいた。

「樹さん・・・」
「はい」
樹さんは簡単にキャップを緩め、私にペットボトルを返した。
「少し開いてるから気を付けて」
とほほ笑む。

「ありがとう」
ペットボトルを受け取りながら、樹さんを見つめる。

まさか、このタイミングで、この場所で樹さんに逢うとは夢にも思わなかった。

「千夏さんは力がないよね」
と小さく笑った。
「前にも開けてもらったこと、ありましたね」
「覚えてた?」
「はい。・・・さっき、なかなか開かないなって思ってた時、樹さんのこと思い出してました」
「そうか・・・。じゃ、ペットボトルが開かなくて困ったら呼んで。いつでも開けてあげるよ」
「樹さん・・・」

目が合う。
ふっと樹さんは悲しそうな眼をして、
「なんてね」
と笑った。

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