幸せのつかみ方
   【樹 side】

「ところで樹さん、今日のお昼にいらした足立さんとはどのようなご関係で?」
千夏さんを車の助手席に座らせて、さあ、発進というタイミングで千夏さんが尋ねた。

「ああ、昔勤めていたコンサルタント会社の人だよ。
病院のコンサルタント依頼を受けるかどうかで少し相談にのっただけだよ」
「そ、そうなんだ」
千夏さんがほっとした表情を見せた。

「千夏さん、やきもち?」
と意地悪して聞いた。
「う・・・だって・・・ものすごくお似合いだったから・・・」
動揺して顔を赤らめ、目を泳がす千夏さんが可愛かった。

このタイミングで俺も千夏さんに尋ねることにした。
「ところで千夏さん、土曜日に千夏さんを見かけたのですか」
この週末ずっと心にあったことを尋ねた。

「え?どこでですか?」
「初めて千夏さんと会ったスーパーの近くの横断歩道です」
「初めて・・・・ああ!」
少し悩んだ後、思い当たる節があるようだった。

「あそこ、結婚してた時に住んでた家が・・・近く・・・に・・・」
だんだん声が小さくなっていく。

「どうしてそこにいたんですか?」
「別れた夫からゴーヤが出来過ぎたから助けてくれと連絡があって、直幸と一緒に行ってみんなで食べたんです」
気まずそうに、でもきちんと答えてくれた。

直幸君も一緒だったのか・・・。
離婚しても直幸君がいるんだから全く会わないというわけにもいかないだろう。

「それなら仕方ないですね」

「やきもち、焼きますか?」
と心配そうに聞いてくる。
「そりゃ焼くよ」
「ですよね」
千夏さんは口元に手を当て、考えているようだった。


「でも、それは仕方ないと思うことにする。
だって、20年以上一緒に暮らしたんでしょ?直幸君もいるし、きっと離婚しても家族なんでしょう?」

驚くように俺を見上げ、こくりと頷いた。

「でも、別れたご主人と二人きりで会うのは禁止」
と言うと、にっこり笑って、

「ありがとう!」
と笑った。



ああああああ!

千夏さんを引き寄せ、もう一度抱きしめた。
千夏さんのこんな笑顔を横で見ていられるなら、俺はなんだってする。

千夏さんを抱きしめて好きだと言えるなんて、夢のようだと思った。


「ねえ、これって夢?」
と聞くと、
「何言ってるんですか?夢なわけないでしょう?」
とくすくす笑うので、俺は・・・・・・・・。



   【樹 side 終】


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