幸せのつかみ方
画面には【朝蔵樹さん】。

「はい、茅間です」
『千夏さん、今テレビ見てますか?』
「あ、今つけたところです。お散歩番組ですよね?」
『そうです』

「今回中華街のお散歩みたいですよ。樹さんも観てます?」
『観てます。肉まん、好きなんですよ』

「おいしいですよね。私も好きですよ。あ、見て、大きな肉まん。あれ、顔が隠れるくらいありそうですよ」
『うわあ、おいしそう』

二人で通話したまま同じ番組を見ている。
「あはははは」
『あはははは』
電話越しに一緒に笑う。

CMになった時、樹さんに
『ねえ千夏さん。この土日のどちらかで中華街行きませんか?』
と誘われた。

「遠くないですか?」
『久しぶりにドライブにも行きたいからちょうどいい距離ですよ。
ただ、一人で歩きながら肉まんを食べるのは恥ずかしくできない。
一緒にいろいろな肉まん、食べ歩きたいです』

「うーん」
『一人だと一つしか食べれそうにないですけど、二人なら半分こして3、4個食べれるんじゃないかな』

「うー」
『それに今度奢ってくれるんですよね?』

「う」
『肉まんは絶対、おいしいですよ。
しかも散歩も楽しそうでしたよ』

次々と出てくる誘い文句に笑いが込み上げてきた。

「あはは。めちゃくちゃ誘いますね」
『よし。笑いが出たってことはOKってことですよね』

「これはデートではなく、お散歩ってことでいいんですよね」
『違い、ありますか?』

「デートはできません」
『違います。散歩です』
食いぎみに否定してきた樹さんに再び笑ってしまう。
そして、申し訳なくなる。

「めんどくさい奴ですみません」
『大丈夫です。めんどくさくないです。
散歩行ってくれますよね?』

「はい。お散歩、ちょうど行ってみたかったんです」
『よかったー』


この後少し話して通話を切った。

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