幸せのつかみ方
「こっち」
と言って腰に手が当たる。
前から来る人を避けてくれたのだ。

「樹さん、前向いて歩かないと危ないです、よわあっっ!!」
がくんと足が傾き、体が右に倒れ・・・
「危ないっ!」
とっさに樹さんの腕が私の背中に回り、抱き寄せられる。

私は樹さんの腕にすっぽりと包まれ、彼の胸板に頬をうずめていた。
「大丈夫?」
樹さんが顔を覗き込む。

「びっくりした!!!」
足元を見ると、10センチくらいの段差があって、私は踏み外したのだった。

「はい。もう千夏さん、手つなぎ決定」
「ええ!?」

「はい、拒否なし!」
「ええー。おばあちゃんじゃないよ」

「知ってるよ」
「あははっ。知ってたか」

「笑い事じゃないよ、危ないから。ほら」
と手を出される。
私の冗談にごまかされない樹さんは、躊躇する私の手を取って手を繋いだ。

「こんなに人多いのに恥ずかしくないですか?」
自分の顔が熱くなっているのが分かる。

「全く恥ずかしくない」
「鉄の心臓」
横目に樹さんと睨む。

「でも」
樹さんが見下ろす。

「でも?」
私が見上げる。

「千夏さんと手を繋ぐのはちょっと照れちゃうよね」
「なっ!」

なんてことを言うんだ?

しかも樹さんの耳は少し赤くなっている。
恥ずかしそうな樹さんを見て、私も恥ずかしくなる。
恥ずかしいなら言わなきゃいいのにと思う。


少しだけ俯いて、
恥ずかしさで口元が緩まないように、唇をきゅっと結んだ。


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