一途な黒川君に囚われてしまいました
恋人になったからには
「ふぅ」

ため息を吐くのは何度目か__。

幸せの絶頂期のはずなのに、心が浮かない。

「ため息ばかり吐いて、一体どうしたの?」

斎藤さんが心配そうな表情で、私の顔を覗いてきた。

「……すみません、何でもないんです」

現在、仕事中であることを改めて自覚し、背筋をピンと伸ばす。

「何でもないって感じじゃないけど……体調が悪いなら私に仕事振ってね」

「本当に大丈夫です!すみません、気を遣わせてしまって」

両手をブンブンと振り否定して見せると、目の前に座る男とパシッと目が合った。

嫌な予感しかせず、目を逸らしたが時すでに遅し。

「恋煩い?」

からかい口調でそう言うのは、柏木君だ。

今、他社員は営業などで出払っていて、室内にいるのは三人のみ。

それをきちんと確認した後に、「そんなんじゃない」と小声で言い返した。
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