一途な黒川君に囚われてしまいました
予期せぬ事態で見えた顔
涙が頬をつたったので、それを頬に当てた。

「今日はごめんね。驚かせてしまったよな」

本当だよ、ひどいよ、と責めたいけれど、言葉が出ない。

代わりに涙が溢れてくるので、ハンカチを目に強く押し当てた。


1Fに着くと黒川君が私の肩を遠慮がちに押し、「降りよう」と優しい声で言う。

苦手な彼なのに、それが今は滲みる。

ゆっくりと歩きエントランスを抜け外に出ると、粒の細かい雨が降っていた。

天気予報の降水確率は10%だったので傘は持ってきていなかった。

今日は厄日に違いない。


小さなため息を吐いた時、黒川君が鞄から折り畳み傘を取り出し二人の間に広げた。

「ほら、入って」

肩を引き寄せられたので、されるがまま傘の中へ入る。

「あそこまで歩ける?」

黒川君が人差し指を向ける道路向かいには、タクシーが一台停まっている。

お財布事情から普段はタクシーは乗らない主義の私だが、コクッと頷く。

今のひどい顔のまま電車に乗れる気がしない。
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