一途な黒川君に囚われてしまいました
意識するきっかけ
オムレツが好きだと知った彼に、今夜はオムライスとミネストローネとコールスローを作った。

卵を三つ使用すると簡単にふんわりとしたオムライスが完成する。

ナイフを縦に入れて卵をドロッと溶けさせると、彼は「すごっ!洋食屋みたいだ」と感激の声を上げた。

オムライスは得意で、樹も絶賛してくれるメニューの一つ。

今夜はマッシュルームとしめじ入りのクリームソースで仕上げ、まろやかにした。

「好みに合うといいんだけど」

黒川君に食べてもらうのは三回目だけど、やっぱり緊張はする。

彼がスプーンを口に運ぶのをまじまじと見つめてしまう。

「どう?」

頼りない声が出てしまう。

「うん、めちゃくちゃ美味しい」

顔いっぱいに笑顔を乗せるのを見てホッとした。

「よかった、お口に合って」

「美味しすぎてヤバい、これは店に出せるよ。レベル高すぎ」

同じ台詞を先日も聞いたので苦笑してしまう。

心の内を読んだように「本気で言ってるよ」と念を押すように言った。

「フフッ、ありがとう」

「すげー美味しい。毎日食べたい」

これほど褒められると嬉しいものである。

自然と頬が緩んだ時だった。

玄関のチャイムが“ピンポン”と鳴り来客を知らせた。

時刻は二十一時過ぎ。こんな時間に来客の予定はない。

「誰だろう……」

実家に戻ってきて一度も来客はなかったので、少し怖い。
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