しみ


 彼と離れることに抵抗がなかったわけじゃない。不安だってもちろんあった。弱弱しい印象の彼だけど、誰より優しくてだから人たらしの部分もあって、やきもきしたことだって一度や二度じゃない。けれど、心のどこかで自信があったのは事実だった。きっと彼は応援してくれる、離れていても大丈夫、そう言ってくれるはずだって。


 「前から言ってたもんね。頑張るんだよ、応援してる。……けど、邪魔になりたくないから、別れたい」と、彼は静かに震える声でそう言った。


 突然の報告だったから、彼もいろんな気持ちを隠して必死にそう言ったのだろう。それが本心じゃないと薄々気づいていても、「別れる」という言葉が彼から出たことにわたしの方が動揺していた気がする。


 曖昧な言い方をして逃げた手前、かっこ悪くすがることもできなくて。いざ「別れ」なんて言葉を耳にしたら反射で「わかった」と口をついて出た。本当にバカだ。


 最後の悪あがきで、「留学するその日までは今まで通りでいて」と、願わくば離れてしまう前に別れるって言ったことを取り消してくれないかと、彼からその言葉が聞けるのをただ待っていた。


 それなのに、無情にも毎日は本当に変わらず過ぎていった。別れる事実だけはそのままに。





< 3 / 10 >

この作品をシェア

pagetop