送り犬さんが見ている

林をしばらく進んでいくと、道の勾配が大きくなり木々も増え、より鬱蒼としていく。すっかり森の中へ入ったみたい。

けれど、チラッと後ろを盗み見れば、まだあの男はしっかり付いて来ていた。
余裕綽々の笑顔がちょっと癪に障る。私は早くも息が上がってきているのに。

「フヨさん、そろそろ休憩なさっては?」

「!」

心の声が漏れてたのかしら…。
確かに疲れてきたけど、九郎の言う通りにするのはなんだか嫌で、構わず前だけ向いて進み続ける。

「……お、おかまいなく!
あんたこそどうぞ休んだら!?」

「フヨさんはそんなに急いでどこへ向かっているんです?」

「………話聞いて…!」

休む休まないの話をしていたはずなのに…!
あっけらかんと訊ねる九郎に調子を乱されながらも、私はつとめて淡々と答える。

「…半日歩いた先の、渡瀬(わたらせ)神社です。」

「へえ、そんな遠くまで。
あそこは僕も行ったことがありますよ。景観の良い所ですよね。」

「……。」

なるべく会話を広げまい。私はここから口を噤むことにした。
しかし九郎の弁は一人歩きをやめない。

「わざわざ時間かけて歩くのですから、何か思い入れがあるのでしょうね。前も通(かよ)ったことがあるんですか?」

「………。」

「あそこはお願い事を叶えてくれる神社だそうですよ。眉唾ですけどね。」

「………。」

「フヨさんは何をお願いするんです?
家内安全とかですか?」
< 10 / 48 >

この作品をシェア

pagetop