愛のバランス
ある日夫の倫也(ともや)が家を出ていった。

『今までありがとう 本当に幸せだった』

と置き手紙を残して。
テーブルには、手紙と一緒に、判が押された離婚届と結婚指輪も置かれていた。

それを目の前に呆然と立ち尽くす妻の麻里絵(まりえ)には、何一つ思い当たる節がなかった。
お互い仕事を持っていて忙しくしていたが、まだ子供がいなかった為、休日は二人でのんびり過ごすこともできたし、時には映画を観に行ったり、お洒落なカフェ巡りをしてみたりと、上手に息抜きをしながら日々を過ごしていた。共通の趣味である旅行を楽しみにお互い仕事を頑張っていたし、マイホーム購入の計画も立てていた。

倫也は温厚で優しく、共働きであることをきちんと理解してくれ、家事も分担してくれた。夫婦仲も良く、結婚して五年経つが喧嘩は一度もなかった。麻里絵にとって倫也は良き夫であり、結婚生活に一つの不満もなかったのだが、倫也はそうではなかったのだろうか。

この状況が受け止めきれず、麻里絵はリビングの床にへなへなと座り込んだ。

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