愛のバランス
「倫君? 私の気持ち伝わってなかった?」

麻里絵は静かに問いかけた。
伝わっていなければ、何度でも伝えたいと思った。

「私、倫君のこと大好きなんだよ。きっと倫君の『麻里絵愛』が大きすぎて、私の気持ちが隠れちゃってたんだね」

そっと身を寄せ、倫也の胸に顔を埋めると、それに応えるように、彼の腕がゆっくりと背中に回された。

「体調は大丈夫? 一昨日……しちゃったけど」

不安げな倫也の声が、耳元で揺れる。

「うん。平気」

倫也らしい言葉に、思わず笑みがこぼれる。

「俺、ずっと不安だったんだ。麻里絵の笑顔を見てても、麻里絵と身体を重ねて幸せを感じてても、ふとあの日の麻里絵の言葉が頭を過って――」

麻里絵はゆっくりと顔を上げ、彼の瞳を見つめた。

「今も?」

小さく問いかけると、倫也の視線が泳いだ。

「今は――」

言葉を詰まらせて、彼ははにかんだ。

「今は?」

もう一度優しく促す。

「今は、今までで一番の幸せと麻里絵の愛を感じてるよ」

その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。
麻里絵はそっと手を伸ばし、倫也の頬を両手で包んだ。

「倫君? 愛情は注ぎっぱなしだと無くなっちゃうんだよ」

それは冗談めかした言い方だったけれど、本心だった。

「えー? そんなことないだろ」

倫也が困ったように笑う。

「でもね、その時は継ぎ足すから、『足りない』ってちゃんと言ってね」

「うん。そうするよ」

「倫君。ずっと傍にいるよ。約束する」





【完】

※最後まで読んでいただきありがとうございました。
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