爪先からムスク、指先からフィトンチッド
やはり残り香を嗅ぎながら女子社員たちはうっとりして後姿を見送り続けていた。

カフェ『ミンテ』は賑やかでほぼ満席だ。
「奥に、席とってありますから」
「ありがとう」
二人が店内を歩くと、ほぼすべての女性客が騒めき視線を送る。
「あ、あれミント王子じゃない?」
「ほんとだー、隣の人だれ?かっこいー」
「芸能人じゃないの? あの二人って」
涼介は教育番組ではあるがテレビ出演したこともあるので、知っているものは知っているようだ。
艶やかなナラの木の椅子に腰かける。
「ミント王子はやはり人気者だな」
「いやあ、兵部さんも女性の注目集めてるじゃないですかあ」
「しかし、意外な内装だな。もっとスタイリッシュな雰囲気だと思っていた」
「俺、こういうカントリーちっくなほうが好きなんですよ。寒々しいのやだし」
「なるほど」
香り高いミントアイスティーを飲んでリフレッシュしていると、また店内が騒めき始める。
「ん? なんだろ。有名人でも来たのかな」
テーブルに影ができ、見上げると環が立っていた。身体のラインが見えにくいメンズライクな白いシャツと黒のワイドパンツ姿は環のスタイルの良さを隠すどころか引き立てている。
「ここ、いいかしら?」
4人掛けのテーブルの薫樹の隣に環は一瞥をくれる。
「どうぞ」
薫樹が答えると環はスッと腰かけ、長い足を組むと、テーブルからミュールを履いた爪先がはみ出て見えた。
「こんにちは」
涼介が挨拶すると環も「どうも」と返す。
「どうしてここに?」
「会社の人からたぶんここだって。あなた全然連絡を寄こさないから」
淡々と会話を交わす薫樹と環を交互に涼介は眺めた後、店内の様子をチェックし、店員の接客態度や客の年齢層性別など素早く判断する。
カップルは少なくほぼ女性グループで占められている。
一通り眺め、視線をふと環の足元に置く。
涼介は心臓に矢が刺さったような衝撃を感じた。
「な、なんて小さい……」
白い革製のミュールはとても小さい。環の身長は高いヒールを履くとほぼ薫樹に近くなる。彼女をかっこいい女性だと涼介は思ったが、大きな女性は大抵足も大きいだろうと、全く好みの対象ではなかった。相手も全く自分に関心がない様なのでお互い様なのだが。
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