恋と、嘘と、憂鬱と。

「季里ちゃんと、お兄ちゃんは…?」

そう呟いてキョロキョロ辺りを見回す心音ちゃん。

そんな彼女に向かって、僕が「まだ戻って来てないよ」と教えてあげようとしたその時。

「心音ちゃん…!」

やけに真剣な表情で、玲子さんが心音ちゃんの名前を呼ぶものだから、僕はとっさに押し黙った。

どうしたんだろ…急に…。

突然の出来事に名前を呼ばれた心音ちゃん自身も「なぁに?」と小さく小首をかしげている。

すると。

「いーい?心音ちゃんが大きくなって付き合うなら、ぜーったいこのお兄ちゃんみたいな人にするのよ?充希くんなら優しいし、きっと彼女のこと1番に考えてくれるタイプよ…!」

「ちょっと…、玲子さん…?落ち着いて…」

あまりにも斜め上の発言をする玲子さんに、僕は目を見張った。

しかも。

「私の元旦那もそりゃあ最初は良かったのよ…?でもね…どんどん口は悪くなるわ。そりゃあもう…」

最終的には自分の過去の経験まで語りだした玲子さんに対して、僕は小さくため息をつく。



ねぇ、季里。
せっかく、僕がお膳立てしてあげたんだからちゃんと言いたいこと伝えなよ。

で、颯真くん。
僕、来年は絶対緑葉谷受かるし、今のところ季里の1番近くにいるの僕なんだからさ。
あんまし余裕ぶってると痛い目みるから覚悟しなといてよね?


心の中で呟いた僕の言葉は、誰にも届くことはないけれど…。

そこまで考えた時、ふいに外の景色に目がいく。
先ほどまで夕暮れでオレンジ色に染まっていたのに日が沈んできた今は、薄紫色に変化していた。

建物の窓から、その綺麗な景色を眺めつつ、、僕はフッと、小さく微笑んだのだった。


充希Side*END

< 395 / 405 >

この作品をシェア

pagetop