婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!

 真っ白なはずのシャツは胸から下が真っ赤に染まり、上から布でキツく巻いていても赤くにじんでいる。

「これはどうしたの?」
「主人に頼まれた使いの途中で、破落戸に襲われたんだ。オレの弟なんだ、助けてくれ!!」
「刃物で切られたなら、治しやすいわ。先にこの薬を飲ませて。止血してから布を外さないと血が止まらなくなるの」

 鎧の男は薬を受け取ると、青年に止血薬を飲ませる。その間に私は増血剤と、切られた傷を完全に治療するための飲み薬を作った。

 緊急時は薬草を調合して、水で溶かし最後にほんの少し魔力を流す。これで効能が十倍に上がるのだ。さらに飲みやすくするためにハチミツやレモン果汁を加える。

「顔色が少しだけ良くなったわね。傷を診せてね」

 怪我の具合を観察したが、深くはないが範囲が広いので傷口を塞ぐ薬草を少し追加した。

「はい、これを飲めば完治するわ」
「えっ、この傷だぞ? こんな飲み薬ひとつで治るのか?」
「あのね、これは魔女の秘薬(ウィッチ・エリクサー)なの。その辺の薬と一緒にしないでくれる?」

 その代わり値も張るのだが、金貨で払えなければ、別の形で報酬を受け取るだけだ。兵士と執事なら、頼めることはたくさんある。

「う……うっ、ぐぅぅ!」
「おい! 大丈夫か!?」
「はっ……はっ……あ、あれ?」

 執事服の青年が起き上がり、腹の辺りを凝視している。先ほどまであった傷はすっかり閉じて跡すら残っていなかった。

「治ったわね。じゃあ、対価をいただくわ」
「マジかよっ! あの傷がこんな一瞬で治ったのか!?」
「兄さん、これは、いったいどういうことですか? 僕は確かに腹を切られたのに……」
「ねえ、ちょっと対価を払いなさいよ」

 なんとかふたりの兄弟から対価を受け取って、またベッドに潜り込んだ。


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