婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!

 いつから? そういえばエル様の帰りが遅くなってから、寝室もわけられてしまった。わたくしを見つめる瞳に燃えるような熱はもうない。

 足もとからガラガラと崩れていく感覚に囚われて、身動きができなくなった。

 わたくしにはもう帰る家もない、ここから追い出されたら……!
 そんなの許せない! わたくしを捨てるなんてさせないわ。どんな手を使っても公爵夫人の座を手放さないから!

「それなら約束してちょうだい。絶対にわたくしと離縁しないと、魔法契約を結んで」
「なっ、そこまで私を信用できないのか!?」
「当然でしょう。婚約者がいてもわたくしを抱いたあなたを、どうやって信じるというの?」

 もともとセシルの婚約者だったし、公爵になる男だったから手を出したのだ。気持ちなんて特にない。都合がいいからわたくしの夫に選んでやっただけだ。

「あれは媚薬の呪いにかかったお前を助けるためだったろう! それとも他の男に相手をさせればよかったか!?」
「冗談言わないで! わたくしは聖女なのよ! その辺の男なんて触れることも許されないわ!」
「だから、お前はもう聖女ではないと宣言されたではないか! 」
「だからなによ。エル様が皇帝になったら、わたくしを聖女に認定すればいいでしょう! それとも他にこの金色の瞳を持つ女がいるとでもいうの!?」

 聖女の力を持つ乙女が教会で洗礼を受ければ、この金色の瞳になる。これはまぎれもなく聖女の証だ。


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