婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
なぜ、あの仮面がここにあるのか。
しかも悪魔皇帝の顔面に張りついているのか、まったく意味がわからない。
現実逃避したい私の脳裏を、過去の記憶が走り抜ける。あれは魔女の修行を始めて半年後のことだった。
『リリス師匠、どうしても呪いの付与が上手くできません!!』
半泣きでリリス師匠の仕事部屋にある机に突っ伏した。
『あら、困ったわね。うーん、そうねえ……コツとしては自分の中の怨念をぶつけるような感じなのよね。だからそういう感情がないと難しいかもしれないわ』
『怨念……』
困ったことに今の暮らしが快適すぎて負の感情が湧いてこない。なんてことだろう、魔女は平和すぎてもダメらしい。
『あ、過去の怨念でも大丈夫ですか?』
『全然オッケーよ! でもセシルにそんなものあるの?』
『ええ、あまりに平和すぎて忘れそうになってましたが、心当たりならひとつあります』
『それなら思いっきりその怨念をぶつけてみて! セシルなら絶対にできるから!』
私は過去の記憶を振り返る。