婚約者を奪われ追放された魔女は皇帝の溺愛演技に翻弄されてます!
怨念と呼べるものがあるなら、おそらく侯爵家で過ごした日々だ。散々いない者として扱われ無視されてきた。
あの悲しみや寂しさや無力感をぶつければできるかもしれない。
目の前にあるのは鼻から上を覆うタイプのハーフマスクだ。所々ひび割れのような模様があり、ツタのような装飾が施されている。ハーフマスクに手をかざし、魔女の力を使った。
【呪眼(カース・アイ)】
これが洗礼を受けて開花した魔女の力で、呪いを可視化する能力だ。呪いは黒い霧状で視えれば扱うのはそう難しくない。私の手を覆っている黒い霧をハーフマスクに丁寧に塗りつけていく。
『っ! できました! 師匠、どうですか!?』
『わあ! さすが私のセシルだわっ! どんな感じかしら〜?』
じっくりと呪いを吟味する師匠の鋭い眼はプロのものだ。
『……成功なんだけど……なんていうか、効果が……ショボくて』
『え? ダメですか?』
『いや、だって一番好きな食べ物が青色に見える呪いってなに!? 目をつぶって食べたらほぼノーダメージじゃない!』
『ええ! でも青色は食欲を無くすんですよ!? 食事は目でも楽しむからつらくないですか!?』
『ダメよ、却下。魔女のプライドにかけて認められないわ。やり直し!』
『……はい』
そう、私は呪いをかけるのが驚くほど下手くそだったのだ。
そのあと何度もやり直したけど、一向に認めてもらえなかった。