極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
「ん! ひこーき! みた!」

 航はすっかり安心したようだ。

 ぱっと明るい声になって、ぶんっとぬいぐるみを振った。

「ん? 見たのか? どこで?」

 しかし翔は不思議そうになった。

 確かにこんな、商業施設の一階で飛行機を見られる場所なんてない。

 果歩はばくばくする心臓を抱えながらも、なんとか口を開いた。

「その……、展望台で……、見えたの」

 果歩の気持ちはわかっているだろう。

 その返事に、翔は顔を上げて果歩を見た。

 二人の視線がしっかり合う。

 たった数秒だった。

 なのに、二年半という時間。

 その長かった時間が、この視線の中に一瞬で流れたようにも果歩は感じた。

「……そうなんだ。良かったなぁ」

 そのあと翔は視線を逸らして、再び航に合わせた。

 航は笑いかけられて、きゃっきゃとはしゃぎ出す。

「うーん! ひこーき! ぶーん!」

 そんなふうにおしゃべりまでする様子。

 果歩は喜んでいいのか、困っていいのかわからなくなった。

 まさか、再会してこのまま「じゃあ」とするわけにはいかない。

 だが、だからといって、なにを話したらいいのだろう。

「果歩」

 なにも言えずにいた果歩に、翔が再び視線を向けてきた。

 その瞳は奇妙に穏やかになっている。

 その目で翔は言った。

 視線通りの、穏やかな声で。

「少し、話をできないかな」
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