太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~

どれくらいそうしていただろう…


ようやく涙も止まり、気持ちも少し落ち着いてきた。

ふうぅぅ…
長く息を吐くと、麻依が抱きしめる腕を緩めた。



目…腫れてるかな…
そんなことを気にしながら麻依と向かい合う。


「麻依…ありがとう……俺、こんな風に誰かに甘えたの、初めてだよ」

ちょっと鼻声なのは許して。


「ん」
返してくれたのは、すごく優しい微笑み。


「正直、まだどうしたいかとかよくわからないけど、でもスッキリしてきた。こっからきちんと考えていけそう」

「ん、それならよかった」

「一緒に…考えていってくれる?」

「うん、もちろん!」

「よかった…」

ふふふ、って笑う麻依がマジで女神かと思うよ。


「でもさ…何で麻依は俺の気持ちっていうか心の状態がわかるの?ホールでのあれもそうだけど、何でさっきもわかった?…マジで俺より俺のこと分かってる気がしてならないんだけど」

本当に不思議でしょうがなかった。
麻依はエスパーかな?って思いそうだったくらい。


「んー、何でかな?何となく?ていうか、分かってるのかも分からないんだけどね」

なんてぼやけた答えを返した麻依が、少し表情を陰らせて言葉を続けた。


「あのね…」

「ん、どうした?」

「…あの…これを言うと諒は嫌な気持ちになるかもだけど…」

「うん、いいよ。言って?」


「ん…あのね、私、友美さんの気持ちも何となくわかる気がするの…。友美さん、再婚してなかったでしょ?稔さんだけだ、って。…そんな大切な人との大事な子供を誰かに託すって、余程の事だと思うの。それこそ大事な子供が…諒が本当に生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだろうって。…もしね、私が友美さんの立場だったら…って考えたら、諒との子供を自ら捨てるなんて絶対できない。それこそ身を引き裂かれるくらい辛いと思う…」


…麻依にまた頭を抱きしめられた。


「諒は…子供の立場で…何も…理由も分からずに残された立場で…私には諒のその時の気持ちとか辛さとか…計り知れなくて…だから勝手なこと言うけど……私は諒を託してもらってよかった…そして佐伯のご両親に愛されて……よかった…」

…麻依の力が、ぎゅうっと強くなって…それが弱くなったと思ったら、麻依の両手が俺の頬を包んだ…


「こうして私が諒と出逢えたのも…諒が生きて…健康に育ってくれたからだもん……それがどれだけ尊いことか…ありがたいことか…」


すぅ、と麻依の手が頬を撫でる。

「諒…私はいつでも諒を愛してる」

麻依が俺にそっと口づけた。


「…勝手なこと言っちゃってごめんね」
申し訳なさそうに微笑んで俺の顔から手が離れた。


だからその手を俺が掴んで…
今度は俺が麻依を抱きしめた。


「諒…」

麻依の思いの詰まった言葉達に、今までずっと囚われていた黒い渦のような…もやもやで遮られていた視界が…少しずつクリアになっていく。


でも…まだ何かわだかまりが残っていて…
そこから黒い芽が出ようとしている…



「…俺が今まで苦しんできたことは…全部ムダだったのかな…」


あぁ…これが俺の中でまだくすぶっている〝黒い種〞か…


「諒、それは違う」

珍しく麻依が否定した。


「諒は…私と出逢ったことは間違いだった?」

「えっ?」


「もし諒が友美さんとずっと幸せに暮らしていたら…」

「…?」


「もし諒が佐伯のご両親の愛に包まれて苦しむことなく育っていたら…」

「?…うん…」


「絶対、私たちは出逢わなかったし、お互いに惹かれなかった」


ズキ…ン…

麻依から言われたその言葉に胸が痛む。


「私もそう……諒の比ではないけど、過去の痛みがあったから誰とも付き合えなくて、無駄…とまでは言わないけど、払拭しきれない思いを抱えたまま時間(とき)を過ごしてて、それはこれからも続くんだって思ってた」

「…うん」


「でもね、諒と出逢って…私の今までの時間は無駄ではなかった、って思えたの。その時間を過ごしてきた、今の〝この私〞だから、諒に好きになってもらえたんだろう、って」

「……」


「諒が傷つかずに幸せに育っていたら…今頃は…他の誰かと結婚して…子供もいて…幸せな家庭を築いていたんだと思う…」

そんなのイヤだけど…と呟き、麻依の瞳から涙がすうっと流れるのが見えた。

「……」


「私も…あの人と出会わずに…他の誰かと出逢って付き合っていたら…その人と結婚していたかもしれない…」


ドク…ッ

急に、その〝他の誰か〞が智さんに思えてしまい、胸が苦しくて…痛い。

麻依にそのつもりはなかったんだろうけど、可能性でいえば智さんが一番しっくりくる。

智さんなら麻依を幸せにしてくれそうだ…って考えるだけで狂いそうだし…胸がジクジクと痛い…


「諒にとっては…辛くて、悲しくて、苦しい人生だったと思う。…けど、だからこそ、今の諒……強くて…優しくて…しっかりしていて…でもどこか弱くて、脆くて、危なっかしくて……そんな諒だから、私は惹かれて…もっと愛したくなった」

「麻…依…」


「きっと…幸せに暮らしていた諒なら私を好きになることもなかったし…私も…好きにならなかったと思う…」

「……」


「傷ついた私達だから、お互いに惹かれたんだと思う…」

「……」


「だから……それぞれ過ごしてきた時間は今に繋がるために必要だったもので…無駄じゃなかったって…思いたいの」


無駄じゃなかった…

今の俺達のために必要だった…


その意味を…
俺の心が呑み込んだら…

黒い種が、スッと消えた……


消えた……

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