太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
ごちそうさまでした、とお店を出て車に戻ると、麻依さんが財布を出した。

「えっと、私の分は払うので…」

「ね。俺、支配人だよ?それなりに給料もらってるよ?」

ニヤリと笑って、わざと偉ぶって言ってみると、麻依さんも俺の気持ちを汲んでくれたらしい。

「ふふ、ありがとうございます。ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」

頭を下げると、下ろしてる髪がサラリと顔にかかった。
…そして、顔を上げてその髪を耳にかける。

綺麗だな…ずっと見ていたい。

「いえ、俺の方こそ付き合ってもらったんだから」

レジで「俺が」「いや私が」という醜いことはせず、スマートに俺に払わせてくれた麻依さん、やっぱ大人だな。

「でも、ご馳走になってばっかりで…」

あぁ、今日の海の家も看病のお礼の食事もあったから気にしてるのかな。

「ほんとに気にしないで。俺が好きでしてることだから」

「ん…ありがとう」

あー、すげぇ可愛いんだけど。
夜だからかな、気持ちが昂ってるっぽい。


「で、行きたいとこはもう1つあるんだけど…いい?」

「あ、そうなんだね。うん、いいよ」

即答、なのは嬉しいんだけどさ…危機感とかないのかな…

「あのさ、麻依さんさぁ…この後俺にホテルに連れ込まれるんじゃないか、とか考えないの?」

ちょっとため息混じりになっちゃった。

「へっ?ホテル?…あー…全然考えもしなかったけど…だって違うでしょ?」

「そうだけどさ…」

俺って信用されすぎてんだか、男として見られてないんだか…と思ったら。

「だって、私を連れ込むだなんてあり得ないもの」

ハハハ、って笑ってるよ…

ヤバいな。
この人には早いとこ自覚させないと。



それから車で向かったのは『スタースカイライン』と呼ばれる、山の上の方へと続く道路。

「上に広い駐車場があるんだ」
「山のてっぺん?」
「まぁ上の方」

細い道を右に左にといくつものカーブを抜けると開けた場所に出た。

「酔ってない?大丈夫?」
「うん、全然平気だよ」

更にもう少し進み、広い駐車場に入る。

平日ということもあってか車は少なく、ポツリポツリと離れて停まっているので、倣うように俺も他の車から離れて停めた。

「少し歩くけどいい?」

窓の向こうを指差して言う。
「もっと上まで行けるんだ。上からの景色、見てみない?」

「えっ、見てみたい!」

好奇心旺盛だなぁ。
フッと自然に頬が上がる。

車を降りて駐車場脇の歩道に出ると上に続く階段があり、そこを数段上ったところで左側に立つ俺が右手を差し出した。

「暗いし、階段だから」

「ん?」

「だから手、貸して」
差し出した右手をヒラヒラさせる。

「あっ、ありがとう」

戸惑いながら差し出された小さな手に、指を絡めてきゅっと握る。

「階段だからゆっくり歩くね」
「ん…ありがと…」

俺を見上げる麻依さんが街灯に照らされて…すごく綺麗だ…




「着いたよ」
「真っ暗だね…ここがてっぺんなの?」
「うん、そうだよ」

街灯は階段の途中までしかなく、ここまで上がると俺達よりも上に人工光はない。

暗闇に目が慣れると、来た時にいつも座る2m四方の正方形のベンチがハッキリと見えてきた。


「ちょっと待ってね」
と、ポケットからタオルを出して敷く。

「ここに座って」
「いいの?わざわざごめんね、ありがとう」

申し訳なさそうに座る麻依さんの隣に俺も腰を下ろした。

「あっち側に街の夜景…ってほどのモノじゃないけど、見えるよ」

どこ?どれ?と麻依さんがクルリと体をひねって見回す。

「あっ、ほんとだ!ここ、結構高いんだね。今、そんなに上ってきたんだー」

ふ、素直に感動してくれるのがすげぇ嬉しい。

「夜景もいいんだけど…上を見て?」

「上?」と言いながら、俺の言葉に麻依さんが従う。

「わぁ!すごい!どこまでも星が続いて…すごい!」

顔を真上に向けて四方八方見回す麻依さんが、先程より大きな感嘆の声をもらす。

人工光がないだけで、こんなにも街で見るのと星の数が全然違うんだよな。

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