太陽がくれた初恋~溺愛するから、覚悟して?~
いつ言おうかと考えているとデザートが運ばれてきた。
見るとそれはホイップクリームが添えられたアイスクリーム。

それを置いたウェイターが下がると、違う服装のウェイターが小さなカップに入ったチョコレートソースを持ってきて「失礼しました」とテーブルに置いたのだけど…

その際、そのウェイターが横田さんをチラと見、また横田さんが小さく頷いたのを、私は見逃さなかった。


すると、横田さんが「このチョコレートソース、おいしいからさ」と私のアイスにたっぷりとかけると「ちょっとごめん、少し席を外すけど、アイス食べててよ」と立ち上がった。


私は返事をせず、軽い会釈だけして横田さんがレストランを出ていくのを見届けると、これ幸いと、その隙に持参した小さな密閉容器にアイスを全部入れて、バッグに戻した。


実は、横田さんに関しては、被害者となり辞めていった同期などいろんな人から話を聞いていて〝最後に出てくるデザートが怪しい〞との結論に至った。
実際に見てみると、今日の場合、怪しいのはアイスではなくチョコレートソースの方らしいが。

とりあえず、そのアイス持ち出し作戦の一部始終は、何かあった時のための証拠としてテーブルにスマホを置いて動画で撮影しておいた。


…それから5分くらいして戻ってきた横田さんは、空になったデザートのお皿を見て口角を上げた。

「アイス食べたんだね。おいしかった?俺のも食べる?」

ニヤニヤしながら話しかける横田さんに、私は「いえ」とだけ答えた。



最後に出されたコーヒーを飲み始めてから5分ほどたった頃だろうか。

「羽倉ちゃん、大丈夫?眠そうだね」

そう言われた。


眠そう、ということは、やはりあのチョコソースには何かが入れられていた…?
では、あの噂は本当だったということ?


…目線を下げたまま考え事をしていたのを〝効いてきた〞と思われた様で…


「そろそろ行こうか」

と椅子から立ち上がると、ニヤリと口角を上げながら私の手首を掴んだ。


「離して下さい」

「何で?ふらついたり倒れたら危ないだろ?」

…やはりそうか。
疑心が確信に変わった。


レストランの入口に差し掛かると手首を掴む力が更に強くなり、私はグイと引き寄せられた。

「きゃっ…」
その一瞬、足元がぐらついた。

「や、やめて下さい!」

「ほら、ふらついてるじゃん。俺が介抱してやるからさ」

ニヤリと細さを増した目で私を見る。


これは…部屋に連れていく気だ…


「大丈夫です。帰りますので離して下さい!」

一方的に手首を引っ張る横田さんに対して力いっぱい嫌がる私、という光景は端から見てもおかしなはずだが…
他の客もホテルマンも誰も助けようとはしない。
恋人の痴話喧嘩か何かと思われているのか…


こうなったらもう大きな声で叫ぶしかない!

そう思い、口を開けて思い切り息を吸い込んだ。


…なのに…声が……出ない…


何で!?

あっ……のどが…震えて…る…の…?

どうしよう…力じゃ勝てないし…
このままでは本当にまずいんじゃ…


そう、ヒヤリとしたその時。



「麻依先輩!」


…聞きなれたひよりんの声が聞こえた。


「大丈夫ですか!?…横田さん!麻依先輩を離してください!」

振り向くと同時に、ひよりんが私に抱きついた。

ひよりん…ありがとう…


「お前は…松島か」

「はい。それよりその手を離してください!」

「俺に詰め寄るとかいい度胸してんな。離すも何も、羽倉ちゃんは部屋で休みたいんだよ。それを俺が介抱してやるだけなんだけど?…そうだ、何ならお前も来るか?」
クックッといやらしい声で笑う。

「お断りします!もちろん麻依先輩も行かせませんから!」
ひよりんが私を抱き締めながら横田さんを睨み付けている。


「横田さん…副支社長ともあろうお方が下品っスよ」

今度は翔琉くんの呆れた様な、人を小馬鹿にした様な声が聞こえてきた。


「あ?…あぁ、お前は高見じゃねーか。揃って何しに来たんだよ。これから俺と羽倉ちゃんの時間なんだから邪魔すんじゃねーよ」

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