本能のまま、冷徹ドクターは新妻を愛し尽くす
解き放たれ心は軽やかに
修平との結婚を決めた日から二か月ほどが過ぎ、季節は夏本番。

先週、結婚式を無事に終えて、これからいよいよ新生活を始めるのだが、梅雨時の蒸し暑さに顔をしかめたくなった。

しかし二十階建てマンションのオートロックを解除してロビーに足を踏み入れれば、そこは別世界のような涼しさだ。

このマンションに真琴と修平の新居があり、修平の勤め先の病院からも花福からも徒歩十分の近距離にある。

ロビーには高級ホテルにあるようなソファセットとグランドピアノが置かれ、黒大理石の壁からは水が流れて涼を感じさせてくれた。

カウンターにはコンシェルジュがいて宅配や来訪者の対応をしてくれるし、最上階には共用のジムやパーティールームもあるセレブな住まいだ。

これまで真琴は実家住まいで修平は単身者向けのマンションに暮らしていたため、ふたりで暮らせる部屋を探そうと話した翌週に彼がここを見つけてきた。

あまりの豪華さに驚き遠慮したくなったが、彼は高給を得ている外科医である。

真琴にしたら目の玉が飛び出そうな購入額を一括で支払い、さらにはこう言ってのけた。

『住みにくいと感じたら別の家を探そう。とりあえず今はここで』

約束の婚約指輪は恐らく数百万はする三カラットのダイヤがついていたし、金銭感覚が大きく異なることに少々の不安を覚える。

けれども、なるべく前向きな気持ちでいようと真琴は笑みを作って豪華なロビーを進んだ。

引っ越し業者は頼まず少しずつ荷物を運び入れ、今日からやっとここで暮らす。
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