*塞がれた唇* ―秋―
「も、もしや、凪徒のモノマネか!? 無礼講かっ!? いや、ついにモモの下剋上かぁっ!? ……いでっ!」

 隣の暮だけが(たの)しみながら、その一部始終を声高(こわだか)に実況したが、すぐさま凪徒の左手が、暮の腕をつねり()めさせた。

「何で俺がまたデコピンされなきゃいけないんだよ! モモ、お前もいい加減にしろっ」

 夏の失踪事件後の『お仕置き』と同じく、デコピン発射寸前の右手首を掴む。

 けれどあの時以上にいやに力の入ったモモの腕は、凪徒の抵抗をあっさり払いのけた。

「お、おいっ! やめろって!! お前のデコピン、超痛──」

 ──……スカッ……──

「え? あ、あれ?」

 凪徒が怖々(こわごわ)目を(つむ)り覚悟を決めた瞬間、そんな音でもしそうなほど、弱々しいモモの指が宙を蹴って、次には凪徒の胸に顔を突っ伏していた。

「おー!! 今度はモモの告白タイムか!? それとも色仕掛けか──!?」

 全体重を自分の胸に預けられた凪徒は、一瞬訳が分からなくなった。


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