横浜山手の宝石魔術師
「お前さんの報告にあったジェムだが、結論として渡した相手にはたどり着けなかった。
巧妙に何人もの手を渡らせていたが、大元はネットで購入したらしく、その販売元は不明。
サイトのアドレス等も第三国をいくつも経由して足跡をたどれなくさせている巧妙さだ」
女子高生とは思えない話し方をして、お手上げという風に両手を横に挙げて肩をすくめた。
「あのジェムは回収をして分析中だが、わかりやすいものが刻まれていた。
・・・・・・薔薇十字だよ」
冬真はその答えにぴくり、と指が動く。
「あれは、人体実験用ですか」
「どうかね、彼らが作成したのだとしたらおもちゃに近い代物だ。
どう日本で流通するのか、どう動くのか、観察するためだったのかもしれん」
女子高生の言葉に、冬真は顎に手を当てて考えていた。
『薔薇十字』
これをマークとしているのが、イギリス薔薇十字団に所属していた魔術師達が1888年に設立した魔術結社『黄金の夜明け団』だ。
かの有名な魔術師『アレイスター・クロウリー』も数年在籍したことのある有名な魔術結社だが、1900年初頭には消え、以後多くの魔術結社が作られた。
それは今なお存在しているが、今回回収されたジェムに刻まれていたのは黄金の夜明け団のもの。
冬真達はイギリス最大の魔術結社に所属しており、冬真には邪悪なジェムの回収やルールを犯した魔術師に対して捕縛する権限もイギリス本部より与えられている。
捕縛だけでは無い、状況によってはその場で裁決を下し執行することまで可能だ。
それだけ冬真には大きな権限が与えられていた。
その冬真達が追っているのが、日本に入り込んできたと言われる既に消滅したはずの薔薇十字団を名乗る者達を捕まえ、目的を吐かせること。
だが思った以上に相手は慎重らしく、今回のような痕跡は見つけられても、元の魔術師を捕まえることは未だに出来てはいなかった。
「実験だったにしろ、こういったことが増えているという報告が上がっている以上は注意すべきでしょう。
日本人はオカルトや占いが大好きですからね」
冬真が呆れ気味にそう言えば、台の上で金色の髪を指でいじっていた女子高生がにやりと笑う。
「また女装してもらうかもしれんしな」
「お断りします」
速攻笑顔で冬真が断ると、それでも女子高生は笑みを浮かべている。
「そういや例の娘はどうしている?」
席を立とうとした冬真が動きを止め、奥で面白そうに見ている女子高生に視線を向けた。
「何故そんなことを?」
「単にお前さんの運命の再会に興味があっただけさ」
朱音とロンドンで出会い、そして再会したことなど誰にも話してはいない。
だが自分と関わった朱音が容易に調べられていることで、『彼女』と結びつけられた可能性がある。
冬真は『目的』をより周囲に悟らせないようにすべきだと再認識しながら、美しい顔で微笑む。
「・・・・・・どこの情報から仕入れたのかはしりませんが」
女子高生は、さてあの娘の何を話すのだろうと前のめりで聞こうとする。
「その格好、90年代半ば以降に流行った『ガングロ』というもので、既に絶滅していたと思っていましたから、それで渋谷に行けば天然記念物で捕獲されますよ?」
笑顔で冬真がそういうとドアがバタンと重々しく閉まり、女子高生はぽかんとそのドアを見ていた。
「・・・・・・チョベリバ」