横浜山手の宝石魔術師
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朱音は、冬真がしばらくすればその後どうなったのか話してくれるかもしれない、何か自分に聞いてくれるかもしれないと期待していたが、冬真が一切この話題に触れなくなったことで朱音から問いかけることなど出来ず、むしろ実は呆れられていてここを出て行くよう言われないためには何も聞いてはいけないのだと朱音は気持ちを切り替え、十二月を迎えていた。
そんな十二月も慌ただしく過ぎて年末年始を各自別に過ごすことになり、冬真は二十三日からイギリスの親族の家に行き戻るのは年明け、朱音も年末年始を実家に戻って過ごすことにした。
健人は実家が同じ神奈川ということと、締め切りの関係で大晦日に実家に行き元旦には戻るというスケジュールで、洋館で全員が再会したのは年が明けて数日後だった。
先に帰国していた冬真は朱音が洋館に戻ってくると土産を渡したいと言って仕事部屋に呼び出し、朱音は緊張しつつ笑顔の冬真とテーブル越しに向かい合う。
「アンティーク店で見つけたのですが、朱音さんに似合いそうだと思いまして」
そう言って四角い箱を渡され開けることを促された朱音がそのしっかりとした蓋を開けると、花のようなデザインの全てラピスラズリで出来た可愛らしいブローチが入っていた。
シルバー台の真ん中に少し大きめの丸いラピスラズリがあり、その周りを花びらのように少し小さめのラピスラズリが囲んでいる。
濃紺色の石の中には金の粉がキラキラと舞っているようで、どの石も味わい深い。
じっと持ったまま微動だにせず見ている朱音に冬真は戸惑ったように声をかけると、ハッとしたように朱音は顔を上げた。
「これ、私がもらっても良いんですか?」
「もちろん。朱音さんに似合うと思って買ってきたのですから」
「嬉しいです!アンティークの宝石をあのラブラドライトの他にも貰うなんて!」
「ところであのラブラドライトのネックレス、常に持ち歩いてますか?」
「え?いえ、部屋に置いてます」
以前は側に感じたくて持ち歩いていたのだが、朱音はインカローズを割ってしまったことが気になって大切なラブラドライトのネックレスは部屋に置いておくことにした。
「これからは出来るだけ身につけるか、せめて持ち歩いて下さい」
プレゼントをもらい大喜びだった朱音は、突然硬い表情でラブラドライトのネックレスのことを言われて、何かまた怖い事が起きているのか不安に思いながら冬真を見る。