双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
 出逢ってまだ数週間でこうなのだから、もしかするとこの先もっと雄吾さんに惹かれてしまうのかもしれない。
 現実は、雄吾さんが私に対して同じように想ってくれるなんて奇跡的なことだ。
「えっ?」
 ぐるぐると考えを巡らせ、半ばあきらめモードになりかけた矢先、突然腕を掴まれて声を漏らした。雄吾さんはそのまま私を引っ張ってバーを出る。廊下の奥へ足を進め、死角へと連れ込まれた。狭く仄暗い隙間に入ったところで腕を解放される。
 私は怖々と雄吾さんを見上げた。
「ふいうちだった。まさかあのタイミングで春奈さんから......って」
 彼は私の想像したような険しい面持ちではなく、動揺交じりの照れくさそうな顔をしていた。
「す、すみませ......ん」
 思わず謝った時に、彼に抱きしめられる。
 いつもふわっと漂ってきていた彼の香水のにおいがよくわかる。
 バニラの香りの中にちょっとだけスパイシーさが残っていて、なんていうかセクシーな香り。爽やかな彼のイメージとは違うものの、そのギャップにドキリとさせられる。あれだけ飲んだワインよりも、彼の香りでほろ酔いになってしまいそう。
 恍惚としていると、彼は腰に回している手に力を込め、旋毛に色香が混じった声を落とす。
「好きって言われた瞬間、人目があるって必死に理性を働かせて抱きしめるのを我慢した」
 彼の言葉に期待して、胸が早鐘を打つ。
 私は懸命に動悸を抑えながら、唇を動かした。
「ごめんなさい。どうにかして伝えなきゃって頭がいっぱいで、周りが見えてませんでした」
 少し緩んだ腕の中から、彼を上目で見る。すると、暗がりでも彼の瞳が優しい光を灯しているのがわかって、鼓動がより激しくなった。
「いや。うれしいよ。周りが見えないくらい、僕のことを考えてくれてたんでしょ?」
 雄吾さんは柔和に目を細め、「くすっ」と笑いをこぼす。そして私の腰をしっかりホールドして、コツンと額を合わせた。
「せっかく楽しく過ごしているのにぎくしゃくしたら嫌だなと思って、別れ際に僕から同じことを伝えようとは思っていたんだけど......先を越されちゃったな」
 甘酸っぱい空気に頭の中は大混乱。
 うれしい。信じられない。恥ずかしい。どうしよう。
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