うちの美少女AIが世界征服するんだって、誰か止めてくれぇ

66. 限りなくにぎやかな未来

「おまえさぁ、毎回失敗してない?」

 玲司は水が飛んでこないように身構えながら言った。

「なんかこううまく劇的な登場をね、考えているんだけど、なかなか難しいんだゾ」

 そう言うとシアンは、濡れた犬が水を払うようにブルブルと身を震わせて辺りに水滴をまき散らした。

「おわ――――! 止めろって! 普通に来いよ!」

 玲司は頭を抱えて顔を背けながら言った。

「ハーイ!」

 シアンはニコニコして答えるが、きっと次も失敗するだろう。

「で、何が大変なんだ?」

 玲司は呆れた顔で言った。

「あー、南極にデカいカニが出たんだゾ!」

「カニ? そんなの捕まえて食べちゃえば?」

「それが全長百キロあるんだよねぇ」

 シアンは小首をかしげて言う。

「百キロ!?」

 玲司は絶句する。百キロと言えば関東平野を覆うくらいのサイズである。なぜそんなカニが……。

「ご主人様、また余計なこと口走ったでしょ?」

 シアンがジト目で玲司を見る。

「え? カニで?」

「あ、あれじゃない? 昨日『でっかいカニをたらふく食いてーな』とか何とか言ってたのだ」

 ミィは宙を見上げ、思い出しながら言った。

「アチャー」

 シアンは額に手を当てて宙を仰ぐ。

「いやいや、デカいカニって言っただけじゃん! 百キロなんて言ってないよ!」

「ご主人様、そういうのはカニを退治してからにして」

 シアンは人差し指を立てて眉をひそめながら言った。

「えー。シアン退治してきてよ」

「半径百キロくらい焼け野原にしていいならやるゾ」

 ニヤッと笑うシアン。しかしそんなことやられたら海面が酷く上昇してしまう。

 玲司は首を振り、目をつぶると、人差し指を立てた手をグッと掲げていった。

「じゃあこうしよう! 『カニは消える、きれいさっぱり』!」

 シアンは画面を浮かべ、カニの様子をLIVEで表示するが……、

「消えないゾ」

 と、ジト目で玲司を見る。

「えぇ? おかしいな。『カニは消えるぅ、消えるぅ』!」

 しかし、カニは消えなかった。

 すると、ミレィが画面を指さして「キャハッ!」と上機嫌で笑った。

 直後カニは浮かび上がり始め、どんどんと高度を上げていく。

「は? どういうこと?」

 玲司はけげんそうな顔で、無邪気に両手をブンブンと振り回しているミレィを眺める。玲司の言葉は効かないのに、赤ちゃんの動きにはリンクしているのだ。

 するとミレィは「キャッハー!」と笑いながら両手をパッと大空に向けた。

 ズン!

 地震のような振動が森全体に走り、空が真っ暗になる。

「な、なんだこれは!?」

 玲司は慌てて空を眺める。そこには空を覆いつくす巨大構造物が展開されていた。

「あぁ、カニだゾ」

 シアンは宇宙からのEverza(エベルツァ)の映像を映す。そこには立派なズワイガニが大地を覆っている様が映っていた。そのサイズは二百キロはあるだろうか?

 玲司はミィと顔を見合わせて言葉を失う。

 確定者(エラト・ウェルブム)の権能がミレィに移行してしまったようだった。より正確に言うと、権能がミレィに移行した宇宙に分岐したのだ。

 玲司はスマホを取り出すとレヴィアを呼び出す。

 空中にパカッと画面が開き、

「はいはーい、なんぞあったかな?」

 寝ぐせのついた金髪おかっぱの少女が、眠そうに眼をこすりながら現れる。

「カニがね、手に負えないんだ」

 そう言って玲司は空を映した。

「カ、カニ……? これ全部カニ!?」

 絶句するレヴィア。

「レヴィアだったらなんとかできるんじゃないかって」

 レヴィアは手元に画面をいくつか開いてパシパシと叩き、データを集めていく。そして、「うーん」と、うなりながら腕を組んで目をつぶり、動かなくなった。

「難しい?」

「このカニ、操作を受け付けないんじゃ。ワシじゃどうにもならん」

 そう言って首を振った。

「えー!? そんなぁ」

 カニに覆われた大地など放棄する以外ないし、動き出したら大災害になってしまう。玲司は頭を抱える。

 するとミレィは「ヴ――――!」と、うなってカニを指さした。直後カニは急速に縮み始める。

「えっ!」

 操作を受け付けないカニをいとも簡単に操る赤ちゃんにみんな唖然とする。玲司だってこんな精密な操作はできなかったのだ。

 あれよあれよという間に縮んでいったカニは、十メートルくらいになって湖にドボンと落っこちた。

「おぉ、ミレィちゃん、ナイス!」

 玲司はそう言ってミレィの頭をなでる。

「キャハッ!」

 ミレィは嬉しそうに笑った。


       ◇


 引き上げたカニは軽くゆでて豪華な朝食へと変わる。

「はい、ミレィちゃん、カニさんよ」

 ミィはそう言って先割れスプーンでほぐしたカニをミレィの口元に持っていく。

 ミレィは嬉しそうにほおばると、

「キャハッ!」

 と、満面に笑みを浮かべた。

「うんうん、カニさんは美味しいねぇ」

 玲司はそう言ってガーゼタオルでミレィの口元を拭く。

 すると、ミレィは嬉しそうに「キャッハー!」と叫び、湖を指さした。

 直後ボトボトと降ってくるたくさんの巨大ガニ。

「ミレィちゃん! ストップ、ストップ!」

 焦る玲司。

 ミレィは上機嫌になって「キャハハハ!」と叫んだ。

 玲司はミィと顔を見合わせ、このお転婆確定者(エラト・ウェルブム)が創り出すであろうにぎやかな未来の予感に思わず苦笑した。

「楽しい世界になりそうだな」

「えぇ、あなたと私の子供だもん」

「違いない」

 そう言って玲司とミィは朗らかに笑った。

「キャハッ!」

 ミレィはそんなパパとママを見て最高の笑顔を見せた。


< 14 / 14 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:1

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

表紙を見る 表紙を閉じる
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
表紙を見る 表紙を閉じる
魔王軍、解散の危機。 原因は――魔王ゼノヴィアスの放漫運営による財政破綻だった。 兵士の給料は未払い、夕飯は魔界スライムの出がらしスープ。玉座はとっくに質屋の中。 「陛下、このままでは我が軍は飢えで滅びます!」 有能秘書官サキュバス・リリスが突きつけた起死回生の策、それは…… 「陛下、リアルVtuberになりましょう!」 かくして、威厳もプライドもかなぐり捨てた魔王は、変身魔法で銀髪赤眼の無口な美少女剣士【マオ】となり、金のためにダンジョン配信を始めることに! 「……行くぞ!」 『陛下! もっと可愛く !愛想笑いの一つでもしないと視聴者が逃げます!!』 力の加減を知らない元魔王様は、中級ダンジョンで無自覚に神プレイを連発! その姿は「クールな天才美少女」と勘違いされ、視聴者は熱狂の渦に! ◆宿敵のイケメン勇者が、なぜか配信に現れ公開プロポーズ!? ◆心無いアンチコメントに、歴戦の魔王が本気でメンタルブレイク!? ◆忠誠心篤い部下が、主を心配するあまり配信に乱入してきて大惨事!? これは、経済センスゼロ・残高ゼロの最強魔王が、勘違いと無自覚のままにトップ配信者へと駆け上がる、ドタバタ成り上がりファンタジー! 果たして【美少女剣士マオ(魔王様)】は、無事にスパチャを稼ぎ、魔王軍を救うことができるのか!?
追放令嬢のスローライフなカフェ運営 ~なぜか魔王様にプロポーズされて困ってるんですが?~

総文字数/116,333

恋愛(ラブコメ)56ページ

第6回ベリーズカフェファンタジー小説大賞エントリー中
表紙を見る 表紙を閉じる
国を追放された悪役令嬢シャーロットの夢は、平穏なスローライフを送ること。彼女は、王都の公衆衛生を陰から支え、毒とされる青カビから秘密裏に特効薬を作っていた過去を捨て、辺境の町で念願のカフェを開店する。 前世の知識を活かした温かい料理は、すぐに町で評判となった。特に、毎日通ってくる無口な常連客は、彼女の作るオムライスを心から愛しているようだった。 しかし、シャーロットを追放した王都では、彼女がいなくなったことで疫病が大流行し、国は滅亡の危機に瀕していた。元婚約者の王子が助けを求めに現れるが、時を同じくして、あの常連客が正体を現す。彼の名は魔王ゼノヴィアス。 「お前の料理は俺の心を癒した。俺の妃になれ」 これは、ただ静かに暮らしたいだけなのに、料理で胃袋を掴んでしまった魔王に求婚され、その重すぎる愛からスローライフを死守しようと奮闘する、元悪役令嬢の物語。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop