密かに出産するはずが、迎えにきた御曹司に情熱愛で囲い落とされました
「最近親に、家庭を持った方が社会的に信用度が高いと言われ、結婚を急かされて困っている。勝手に縁談をいくつも持ってこられて断るのに骨が折れるから、形だけでも結婚したいんだ。親には三ヶ月後、結婚には向いてなかったと言えばいい」

よどみなく事情を説明され、私はますます混乱する。

「形だけの結婚……。その相手が、私……?」

彼の容姿や社会的立場なら、すぐに相手が見つかるだろう。
それなのにどうして私が?という疑問が頭をもたげる。

すると君塚先生が、スッと姿勢をただした。

「俺は、きみがいい。きみだからこうしたいと思ったんだ」

声は澄んでいる。凛々しく揺るがない瞳は、見つめていたら吸い込まれそうだった。

冗談じゃないんだ。本気なんだ……。
君塚先生の真剣さに、私はやっと、これは現実なんだと理解する。

三ヶ月、祖父母を慕ってくれていた人と一緒に暮らして、仕事を探す。
戸籍にバツがつくけれど、今どきバツイチくらい珍しくない。

それに、私……。

正直に言うと、祖父母を知る人物と懐かしさを共有して、寂しさを埋める寄る辺がほしかった。

君塚先生となら、心に巣食う喪失感を埋められるかもしれないという希望に気づいてしまった。

天秤が傾き、心が揺れ動いたとき。

「たっぷり甘えさせるから」

君塚先生がまるで私の背中を押すかのように、自信ありげに目をすがめた。



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