魔法使いは透明人間になりたい



 けたたましいアラームの音で目が覚めた。
 
 ベッドからのっそりと起き上がって、まだ開ききらない目にを触りながら家をぐるりと見渡したとき、微かな違和感が胸を掠めた。
 
 自分の家なのに、自分のものではないような気がする。他人の家みたいな雰囲気がした。
 
 それが、部屋に飾られているもののせいであることに気がついたのは、起きてから随分と経ち、しっかりと目が覚めてからだった。
 
 机の上に置いてある写真立てには、ひまわり畑を背景にしたツーショットの写真が挟んである。そこにはたしかに自分が写っているのに、隣には見知らぬ男の人がいた。
 
「……誰?」

 やけに顔が良かった。まるでモデルやアイドルのようで、王子様みたいな笑顔で写っている。これはいったい誰だろう。彼氏? ……残念ながら、わたしに彼氏はいない。

 じゃあ、本当にこの人は誰なのだろう。

 その写真以外にも、机の上には小さな全身が写ったパネルみたいなものがいくつも飾られていたし、分厚さの違うCDがたくさん並んでいた。
 
「め……ら、く?」

 そのどれにも英語で『Merak』と書かれてあったけれど、全くピンと来なかった。
 
 ベッドサイドからスマホを取り、検索してみる。一番上に出てきたサイトをタップすると、シンプルに白いシャツに白いパンツを着た5人の写真が表示される。どうやら、有名な芸能事務所に所属しているアイドルのようだった。
 
 その5人のうち、写真立てにあった人と同じ顔をした人がいた。その写真をタップしてみると、個人のプロフィールページに飛んだ。
 
「松永、佑」
 
 松永佑。
 その名前は、知らない響きをしていた。
 
「え、まって」

 理解が追いつかない。頭の中を整理しようにも、状況が全くわからなかった。机の上に飾ってある写真立てを手に、マジマジと見つめる。

 隣にいるのは、本当にわたしだよね?
 ……わたしだ。この洋服はわたしのものだし、なにより自分の顔なんて間違えるはずがない。

 背筋にぞわりと悪寒が走る。
 
「なんでアイドルとツーショット撮ってんの……?」


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