*触れられた頬* ―冬―
「お母さん……」

 が、すぐにモモは柔らかな口調と心配そうな面差しを表した。

「お母さんは、お母さんのお母さんが生きている内に会えたの? お母さんと仲直り出来たの? お母さんは幸せな気持ちで天国に行けたの……?」

「も、もせ……?」

「モモ……」

 一瞬驚きを隠せなかった椿と凪徒だったが、ハッとした椿は肯定を意味する首肯(うなず)きを何度も何度もしてみせた。

 途端に涙が止め()なく溢れ出す。

 先刻枯れるほど泣いた筈だというのに──。

「だったらお母さんは間違ってなかった。お母さんのお母さんが何も悔やまずに天に召されたのなら、お母さんは一番良い選択をしたのだと思う。だってあたしも日本で幸せだったし、今も幸せだから……」

 そう言って泣きじゃくる椿を見下ろしていた視線を上げた先には、珍しく感極まりそうに唇を引き結んだ、微笑む凪徒の一直線な瞳があった。

 モモは自分の言ったことを思い出し、ふと顔を赤らめて慌てて首を下へと曲げた。

 ──そうだ……お母さんが先輩の家を出てくれたから、あたしは先輩の妹にならずに済んで、サーカスで出逢うことが出来た……パートナーにもなれたんだ……!!

「ありがとう……ありがとう、桃瀬……」

 ──ありがとう、お母さん。

 涙でびっしょりになった母親の手は、それでも春の陽だまりのような温かさを保ちながら、モモの手を力一杯握り締めていた──。


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