*触れられた頬* ―冬―
 結局九死に一生を得たが、何十日も生死の境を彷徨(さまよ)うことになった。

 運転手は死亡、遭遇した八割方の人間が亡くなった凄惨な大事故の中、命だけでも助かったのは幸運だったと、誰もが椿を慰めた。

 椿の全身には悔恨の念が(めぐ)り、しばらく口も聞けない程の凄まじい振盪(しんとう)が押し寄せていた。

 両膝下切断などという大きな障害を負ったことよりも、それにより娘と会えなくなってしまった喪失感の方がどんなに深かったことかしれない。

 それでも三年が過ぎ、モモの四歳の誕生日をモスクワで祝った頃には、何とか自分を取り戻していた。

 そして気付く──神が自分をお裁きになられたのだと。

「私は……浅はかでした。一度手放した娘を易々(やすやす)と取り戻せるなどと、安易に思った自分を神はお(いさ)めになられた……自業自得だと思いました。やはり……罰が(くだ)ったのです」

 やっとしゃくり上げるような泣き方を収めたが、椿の自分を責める言葉は変わらなかった。


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