*触れられた頬* ―冬―
 椿は一度おもむろに(うつむ)き、そして何かが込み上げるような感慨深い眼差しをしてモモを見上げた。

「血は……争えないのね……」

「え……?」

 (なつ)かしそうで嬉しそうなしみじみとした言葉に、モモは刹那驚きの声を洩らす。

「私の祖父は……貴女にはひいおじいさんね──オールド・サーカスで空中ブランコ乗り、だったのよ」

「「え? ──ええっ!?」」

 凪徒とモモの裏返った大声に、椿はくすくすと笑った。

 その隣のカミエーリアは、先程までの椿のように目を丸くしたが、笑いを(こら)えた椿から説明を受けて、同じくくすくすと笑い出した。

「だって……貴族で……?」

 凪徒もさすがに吊り目を丸くしてしまう。

「でも同じ貴族の生まれでありながら、親の反対を押し切ってサーカスの芸人になったドゥーロフ兄弟のことは、凪徒さんもご存知でしょう?」

「ええ……確かに」

 凪徒は遠い目をして、更に昔のロシア・サーカスの歴史を手繰(たぐ)り寄せた。


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