*触れられた頬* ―冬―
「けれど祖父の場合は、そうはいかなかったようです。ですから、たった三日だけ。祖父は子供の頃からサーカスが大好きで、どうしてもブランコに乗りたくて、学校の帰りに内緒でオールド・サーカスのブランコ乗りに稽古をつけてもらったのだそうです。そうして三日間だけ興行に参加をさせていただいたのだと……祖父の舞はとても美しく大好評だったそうです。後日是非スカウトしたいと、オールド・サーカスは他のサーカスの団長達に押し寄せられたそうですが、祖父は家を継がなくてはいけない身ゆえ、その一件には姿を現さず沈黙を通しました。それでもその後もオールド・サーカスの楽屋には良く通っていたようで、後々団長になられたユーリー・ニクーリンとも親交は深かったそうです」(註1)

「ニクーリンと!? あっ……だから椿さんのことも!!」

 突拍子もない事実にモモはいつもの如く絶句し、凪徒はやっとニクーリン・サーカスの受付嬢が椿のことを知っていた理由に辿(たど)り着いた。


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