*触れられた頬* ―冬―
「雪が随分積もってきたそうです。タクシーを呼びましょう」

 窓の外の様子を見たカミエーリアの助言を受けて、椿がにっこりと微笑み通訳をした。

 二人は心此処に在らずの状態で食事を済ませたが、タクシーの運転手が扉のブザーを鳴らした頃には、少し落ち着きを取り戻していた。

 モモははにかみながら「スパスィーバ(ありがとうございます)」とお礼を伝え、「アリガトウ」と片言の日本語で返してくれたカミエーリアと、名残惜しそうな椿から温かな抱擁を受け取り、凪徒はそれを満足そうな面持ちで見守った。

 明日夕にまた訪ねることを約束し、タクシーに乗り込んだ凪徒とモモはしばらく言葉が出てこなかったが、

「……今こそが、『あいつ』を使ってやる絶好のチャンスかもしれないな……」

 ──先輩?

 ポツリと独り言を(こぼ)し、ニヤリと笑う凪徒。

 その横顔はモモが目にする前に、車窓を彩る(あわ)雪の降る真っ黒で真っ白な空を見上げていた──。



[註1]ひいおじいさん:もちろん架空の人物です。


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