*触れられた頬* ―冬―

[32]寝坊とイタズラ

 翌朝のモモは珍しくなかなか起きてこなかった。

 今まで心の奥底にしまわれてきた(わだかま)りや葛藤など、不透明で(よど)みのあった堆積物が昨夕の一件で浄化され、深く心地の良い温かな眠りに柔らかく(まと)われていた。

 反面隣室の凪徒は早朝から起き出して、何やら数件の電話を掛けていた。

 全ての連絡を終えるや鋭い瞳に力を込めて笑い、右手を握って「よっしゃあ!」と独りガッツポーズをしてみせた。



 小一時間後──。

「モモ、起きてるか?」

 ベルを鳴らした後しばらく応答がないので、凪徒は聞こえないだろうと思いつつも、扉の向こうから声を掛けた。

 それでも返事がないので、ジリジリと苛立(いらだ)ちが(つの)る。

 次第に何か()ったのではないかと嫌な予感が走り、気付けば扉を力一杯ノックし続けていた。


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