*触れられた頬* ―冬―
「すっ、すみません~!」

 やっとモモが開錠して、か細い隙間から大きな瞳だけを現した、が。

「早く気付けよ、何か起こったのかと心配したじゃねぇか」

「ごめんなさい~寝坊しちゃったので……今頃お風呂に入ってまして……」

「あ?」

 凪徒の小さな驚きの声に、モモは困ったようにその目を逸らした。

「お前……『真っ()』か?」

「タ、タオルくらい巻いてます!」

「ふーん?」

 見える凪徒の近い顔が意地悪そうに(わら)って、モモの濡れた背中を伝う(しずく)が、まるで冷や汗のように落ちていった。

 ──ま、まさか、このドア、強引に開けられたりしないよね?

「支度にどれくらい掛かる? もうすぐ朝食の時間締め切られちまうから」

「あ、えと、では十分以内に」

「んじゃ、ロビーで待ってるからな」

 杞憂(きゆう)であったかとホッとしたモモは、向こう側のノブで閉じようとする凪徒の仕草に、扉の動きを任せてしまった。

 ゆっくりと自分の許から離れてゆく筈の扉が、しかし突然内側に戻ってきて、


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