*触れられた頬* ―冬―
「あの……お母さん。あたし、二つほど()きたいことがあるのですけど……」

 食事を終えてリビングに移り、ジャム入りのほんのり甘いロシアン・ティーを一口戴いて、モモは少し遠慮がちに話を切り出した。

 椿の隣の凪徒はブランデー入りの紅茶をたしなみ、テーブルにはリンゴとカスタードがたっぷりの、焼き菓子シャルロートカがフルーティな香りを漂わせている。

「何も気にせず訊いてちょうだい。それに敬語なんて使わなくて良いのよ。……って言っても、難しいわよね……でも少しずつで良いからお願いね」

「は、はい……」

 モモはその言葉に胸の内で申し訳なく思いながら、確かに生まれた時から一緒にいる母娘(おやこ)とは、同じになれない不自然さを否めなかった。

 それでもいつか変わるのだろうか? あと数日……ロシアにいられる時間は限られているのだが。

 そんなタイムリミットを惜しむかのように、早速一つ目の質問を口に出した。

「えと……まず、あの……あたしの誕生日はいつですか?」

「あ……っ」

 椿は昨夜のように両手で口元を押さえ、言葉を詰まらせた。

 やはり自分は何て酷い母親だったのだろうと感じざるを得ない。

 自分の誕生日を知らない娘──どうして、あのメモに書いてやらなかったのだろうか──。


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