*触れられた頬* ―冬―
「先輩、あたし幾つマトリョーシカを買わないといけないんでしょうか?」

 モモはいきなり現れた帰国への現実に、団員の数が分からなくなった。

「お前、ロシア土産を全部マトリョーシカにするつもりか!?」

「え? 他に何があるんですか?」

「そりゃあ、ウォッカとかウォッカとか……ウォッカ、とか?」

「先輩もおかしいと思いますけど……」

 二人は顔を見合せて吹き出した。

 と同時にモモの全身を切ない気持ちが駆け巡る。

 ずっと二人きりではなかったものの、こうして三年間凪徒と寝食(しんしょく)を共にしてきたのだ。

 それも残り幾日あるのか──表情には出してはいけない感情を、今は忘れようと努めることしか出来なかった。

「あ、そう言えば……リンちゃん、退院したでしょうか?」

 先程思い出したメンバーを反芻(はんすう)して、モモは凪徒に問い掛けた。

 モモの携帯電話は海外対応でないので、メールも電話も出来ずに今に至る。

「ああ、そうだな。公演中でも秀成なら出られるだろ、掛けてみるか?」

 と凪徒が早速自分のスマートフォンを手に取り、やがてコソコソとした声で秀成が応答した。


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