*触れられた頬* ―冬―
「あの……先輩」

 プイッと横を向き腕を組んだ凪徒は、遠慮がちに掛けられたモモの声に身体を戻した。

「あたしと……握手してください」

「え?」

 視線の先には、真剣な表情と伸ばされた右手があった。

「ああ……」

 その雰囲気に気圧(けお)されてつい手を伸ばす。

 凪徒は意味も分からず、モモが入団して以来初めてとなる握手を交わした。

「ありがとうございました! 先輩」

「母さんに三回転見せられて良かったな、おめでとさん」

 温かな大きな掌に包まれて、モモは柔らかく微笑んだ。

 少しばかり照れ臭そうなねぎらいの言葉に大きく(うなず)き、そのまま顔が見えない程度にやや下を向いた。



 ──さようなら……あたしの、相棒さん……──。



「モモ?」

 ブランコ以外で初めて繋いだ手が、別れを告げる挨拶になるなど、誰が想像したというのか。

 モモはそのまましばらく頭を上げられなかった。

 動いたら泣いているのがバレてしまう。

「ハラショー! ハラショー!!(凄い! 素晴らしい!!)モモ! ナギト!」

 やがてステージに降り立った団員達が押し寄せて、モモの小さい身体を(かつ)ぎ上げ、胴上げを始めた。

「スパ……スィーバ!(あり……がと!)みんな……!」

 お陰でモモの涙は、天へと消えた──。






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