*触れられた頬* ―冬―
「母親(づら)出来る立場ではないことは重々承知の上ですが……あの子、サーカスの皆さんにご迷惑を掛けることなどございませんか?」

「いえ。娘さんは、もう立派な大人ですよ」

 ──先輩……?

 椿の母親としての質問に、間髪()れずに否定した凪徒の言葉は、モモには意外に思われた。

 ずっと子供扱いされてきたと思っていたのに、凪徒は『立派な大人』だと答えたのだ。

「モモは誰にでも優しく思いやりを持って接してきました。他人の為にも自己を犠牲に出来る強い心を持っています。時々自分の方がよっぽどガキだなと思い知らされますよ……ですから。安心していてください」

「ありがとうございます、凪徒さん」



 ──違う……。



 モモは唇を(ふさ)いでいた両手で顔全体を覆い(うつむ)いた。

 ──どうして先輩のこと「見た目だけが好きなんだ」なんて言葉に惑わされたの? 先輩はこんなに温かな目で見守っていてくれた。こんなあたしを認めてくれていた。本当は先輩の優しさ、ずっと分かっていた筈なのに──。


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