*触れられた頬* ―冬―
「ナギト、モモ、トッテモ タノシカッタ! ツギ ハ ツバキ ト ニホン デネ! ツバキ ノ コト ハ マカセテオイテ!!」

 カミエーリアが片言の日本語で挨拶をし、凪徒とモモにハグをした。

 改めて心強いと思う。

 母親の傍にはこんなに頼もしいもう一人の『ツバキ』がいる!

「スパスィーバ!(ありがとう!) カミエーリアさん!!」

 やがて出国の時刻がやって来た。

「お母さん、ごちそう本当に美味しかった。あたしも日本で頑張るね!」

「行ってらっしゃい、桃瀬。いつでもその笑顔を忘れずにね!」

 モモは深く(うなず)いて、椿の頬に自分の頬を触れさせた。

 温かく柔らかい感触。

 最後の抱擁を交わして、絶品の笑顔で手を振り離れる。



「「「ジェラーユ・ウダーチ!!(幸運を!!)」」」



 沢山の声が一斉に叫んだ。

 ──何年後になっても構わない。立派なブランコ乗りになって再会する──ニーナさんと、カミエーリアさんと、オールド・サーカスの皆と……そして力をくれた先輩と。だからお母さん、見守っていて! きっと笑顔で会ってみせるから!!

 凪徒とモモの思い切り振られた指先が、椿と皆の潤んだ視界から、羽ばたく鳥のように飛び立ち消え去った──。


< 192 / 238 >

この作品をシェア

pagetop