*触れられた頬* ―冬―
「これ……?」

「母が私にくれた、代々受け継がれるイースターエッグよ。これからは貴女が持っていてちょうだい」

 淡い海色のマーブル地に、波を描くように大小の宝石が並んでいた。

 透明度の高さと、繊細なカットより放たれる光の精度から、とても上質なダイヤモンドであることが(うかが)える。

「でもこんな、大切な物っ」

「もう分かるでしょ? 私の一番大切なものは貴女。だから貴女に持っていてもらいたいの」

「お、母さ、ん──」

 温かな胸に(いだ)かれるや、細くしなやかな両腕がモモの背中を包み込んだ。

 しばらくは味わえないのだ──モモはこのぬくもりを忘れないようにと、長い時間を掛けて身体と心に染み込ませた。

 ある程度の片付けを手伝い、最後に買った土産もパッキング完了、四人はタクシーでシェレメーチエヴォ国際空港へ移動した。

 チェックインを無事に終えた頃、公演を終えたニーナをはじめとするサーカスの数人が見送りに来てくれた。

「Come again, Momo!(また来てね、モモ!)」

「Come to Japan, too! Someday!!(ニーナさんも! 是非いつか!!)」

 ニーナは「私、サンクトペテルブルク出身なの」と言いながら、そちらでは有名なバレエ・グッズの店「グリシコ」の、可憐なTシャツやバレエ人形を餞別にとプレゼントしてくれた。

 モモは何もあげられる物を持っていなかったので、秀成とリンに申し訳ないと思いつつ、差していたあのピン留めを手渡し、「When attacked by a drunk, you should be close to him this!(酔っ払いに絡まれたら、これをかざしてね!)」と説明して、ニーナの真っ白な掌に乗せた。


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