*触れられた頬* ―冬―
「ロシアに二人きりで旅行なんてして、何か気持ちが変わっちゃいましたか?」

 洸騎も負けずに唇の端を吊り上げた。

「まさか……あいつをパートナーに選んだのはこの俺だ。今更あいつの良いところに気付いたりなんてしない」

「え! あ……それじゃ、もっと前から……?」

 凪徒は何も答えなかったが、淡い微笑がそれを物語っていた。

「だったら早くモモに伝えてあげれば良かったのに……この三年、きっとモモは片想いに苦しんでいた筈だ」

 洸騎の背中にもじんわりと汗が(にじ)む。

「ちょっとした『大人の事情』て奴があるのでね」

「ふうん、だったら大人になんてなりたくないな」

「いや、そうでもないさ。『大人』になるのもなかなか悪くない」

「……?」

 凪徒との曖昧なやり取りに、ついに洸騎は沈黙した。

 凪徒は一心な視線を崩さないまま、心の奥底で今までの時間を思い返していた。

 ずっと待っていたんだ──あいつが『大人』になる時を。


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