*触れられた頬* ―冬―
 まもなくという頃に団長室の引き戸が開き、モモだけが其処から現れて、凪徒に気付かないまま向こうへ歩き出した。

「──モモっ!!」

「え……?」

 後ろから掛けられた名を呼ぶ悲痛な大声に、モモは振り返る間も与えられないまま、突然身動きが取れなくなる。

「せ、先輩!?」

 ──え……えと……これは、どういう状況なのかしら? んと……あの……後ろから、だっ、抱き締められてる……?

 眼下に現れた自分を抱え込む凪徒の両腕に、モモは大きな瞳を白黒させてしまった。

「行くなよ……」

 凪徒の(かす)れた声は、モモの左こめかみのすぐ横から聞こえてきた。

「あ……」

 クロスして、両肩を抱き締めるスラリとした長い手が、ぎゅうっと力を込める。

「モモ……行くなって」

「先輩……」

 緊張でガチガチに直立した状態のモモは、凪徒がどうしてなのか自分が退団することに気付いたのだとハッとした。

「し、心配をお掛けしまして、すみません……」

「んなのいいから!」

 モモの困ったような謝罪の声に、何も出来ない歯がゆさと自分の不甲斐なさを感じて、凪徒はやにわに叫んでしまう。


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