*触れられた頬* ―冬―

[53]自分の理由と本当の誕生日

 帰国した夕方、抱き締める暮と皆の輪が解散し、何とか落ち着きを取り戻したモモは、凪徒と共に団長室を訪れ、ロシア研修旅行の全てを報告した。

 事前に凪徒からの連絡で、母親発見の良い知らせを聞かされていた団長は、いつにも増して小さな目を細め、凪徒にはねぎらいの、モモには祝いの言葉を掛けた。

 しばらく談笑が続いた後に二人は退室したが、モモは凪徒の姿が消えるのを待ち、再び団長室へ戻って、翌夕の約束を取り付けたのだった。

 それから急いで施設に連絡をして、もし来られるのならその時間にサーカスまで来てほしいと、電話の向こうの園長に依願をした。

 既に一県(また)いだ都市まで移動している為、来られなければ自分独りで何とか団長を説得するつもりであったが、園長はしばしの保留の後、茉柚子と共に必ず伺うと約束してくれた。

 そうして現れた二人と合流し、団長室をノックしながら凪徒と遭遇したあの後、モモはとんだところを目撃されてしまったと鼓動が波打ちながら、中からの声に(こた)えて入室した。


< 215 / 238 >

この作品をシェア

pagetop