*触れられた頬* ―冬―
「モモ」

「は、はい」

 言葉もなく徐々にうなだれてゆくモモの頭上から、降ってきた自分の名前は凪徒(なぎと)の声だった。

「今まで連絡しなかった訳じゃないんだろ?」

「はい。園長先生には時々手紙を書いています」

 見上げて答える表情には嘘の色はない。

 が、凪徒も微かに引っ掛かる何かに気付いていた。

「移動すれば誰だってサーカスの存在には気付くんだ。公演前か休演日にでも挨拶に行ってこいよ。世話になった場所なんだから」

「……はい。すみません」

 其処でアルミホイルから漂ってきた焦げ臭さに気付き、慌て出した面子(メンツ)のお陰で話は途切れてしまったが、モモの(ほの)かな(かげ)りはしばらくその顔から消えなかった。



「ごめんね……(こう)ちゃん……」



 香ばしいさつまいもを口にしながら、苦々しい口元から(ささや)かれた名前と謝りの言葉に、モモは罪悪感で胸が一杯になっていた──。


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