*触れられた頬* ―冬―
「それと、次の公演で『あの二人』をそろそろデビューさせてやろうかと思っての」

 団長が示したのは、凪徒とモモのサポート役を務める青年二人のことだった。

 彼等はモモよりブランコの経歴は長いが、実際は他の演目をメインにしている為、ずっと影役に徹して今に至る。

 モモはその言葉に少しホッとして、そして少し胸が斬り裂かれそうな気持ちになった。

 自分がいなくてもブランコが回せるとなれば、辞職の意を伝え易くはなるが、後から来て主役を奪いながら、自分の都合で早々に去ってゆく後輩を、彼等は一体どう思うのだろう。

 やはり裏切り行為に他ならないことは否めない。

「まぁ、そうなるとあいつらのサポート役が必要となるが、その辺は暮達で補えるだろ。夫人もおめでたとなると、少々『華』の欠けたブランコとなるがの。ということで、準備の方、宜しく」

「「はぁ……」」

 微妙にやり込められた感の漂う強引なまとめで、二人は放心した返事を(こぼ)していた。


< 62 / 238 >

この作品をシェア

pagetop