*触れられた頬* ―冬―
「もう、うるさいわねぇ……車、此処まで回してもらうことにしたわ。すぐ来るからこれで帰るわね。今夜は近くの別荘に泊まるの。モモちゃん、旅行準備の買い物をするなら手伝うわよ。日時が決まったら連絡してちょうだいね」

「でも、杏奈さん、今は安静にしていた方が……」

 杏奈は運転手への電話を終えて、モモとの買い物を楽しそうに想像したが、モモはその心強さよりも杏奈の体調の方がずっと気掛かりだった。

 今夜でさえこんな寒い最中(さなか)を遠路はるばる来させてしまったに違いない。

「モモの言う通りだ、アン。デパートなんてウィルスの宝庫だぞ」

 凪徒の意外な忠告に、

「あらん……めずらし。ママを心配してくれるのねーナギトちゃん」

「おっ前……出産を終えたらデコピンくれてやるっ!」

 再び始まりそうなバトルの手前で、折良く運転手が現れ、モモは苦笑いを安堵の表情に変えた──。


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