*触れられた頬* ―冬―
「まったく、こんな所ですっ転んだのか~? ほれっ」

 モモの手首を引っ張り起こした時には、既に凪徒はいつも通りだった。

「お、お早いご帰還ですねっ」

「ゴキカン? 何だそれ。ほら行くぞ」

「はい……」

 (きびす)を返して歩き出す凪徒に、モモも慌てて後ろをついて行く。

 ──団長達の声、きっとこのピン留めからだ……。録音なのかな? もしかしてアルコールを含んだ呼気に反応する──?

 だからこそリンはあんなに肌身離さず着けるよう強要したのだと、モモは改めて納得した。

 更に機器であることから入浴時には外すことと、就寝時にも近くに置くようにと。

 ──それって、先輩がさすがにウォッカなら酔うと思ったから? ……ううん、もしかして、先輩は記憶がないだけで、以前にも酔ったことがある?

 モモはサーカスメンバーの用意周到さと、凪徒の「突然過ぎ」()つ「異様に短い」酔っ払い振りに、苦笑いを浮かべながら感心した──。 


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