冬の月 【短編】

「ハルヒト」の活動は順調だったが、始まってからずっと僕には気がかりなことがあった。

それは栞が、やっぱりあの僕の最後の一人路上の日以来、ここには姿を見せなかったことだった。

つまり、僕の予想は的中していた…栞は僕の唄を聴きにここに来ていた、ということなのだ。

それは僕にとってすごくショックなことだった。

心の中で僕は「もしかしたら来てくれるかも…」という僅かな希望を持っていたのは確かだった。


活動を始めた頃は、そのことばかりが気になっていたが、お客さんが増えてくるにつれ少しずつ僕の中の栞の存在は小さくなっていっているような気がしていた。

それでも曲が終わって大きな拍手が起こる中、集まってくれているお客さんの顔を見た時、その中に栞の笑顔がないことがすごく寂しかった。

だから、早く忘れようと努力した。


栞がここに来ることはない…。

だって僕は「ハルヒト」の路上で唄うことがないのだから。

僕は、ここに集まってくれるたくさんの人と自分のために音楽をしているのだから…。



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